2008年7月26日

川村秀三郎様

突然手紙を差し上げる失礼をお許しください。

 私は2007.1.29発行の日経ビジネスの「保守分裂でそのまんま独走」の記事を拝見した一読者です。
 拝読してあなたのご意見に間違った点は見出せんでしたが、何かが不足なのです。心に訴えてこないのです。そこで何が不足なのか、私なりに考えてみました。そして得た結論は「隠し味がない」ということでした。
 貴方様は57歳、これからの方です。もしかしたら、底辺で生きた76歳の私の体験がお役に立つことがあるかも知れない。そう考えてペンを取りました。もしこの文がお目に留まることがあれば、最後までお読みいただければ幸いです。

 私は中国山地の山間で和牛の一環経営を40年余り続けてきました。日本広しといえども同じ考えの農民とは出会ったことがありませんので、独特の方式なのでしょう。それは和牛を周年放牧という形で飼育してきたからです。そして、自然の中で世代交代をして適応してきた牛たちに、人間が見落とし、忘れてきた様々な事柄を教えられました。

 先日、先生と同年輩の当地方中堅の人工授精師さんにお会いしました。年賀の挨拶のあとで、「見浦さん、皆さんはどうですか?」と尋ねられました。
 私の牧場は目下世代交代中で、嫁が資格を持った授精師、(彼女は免許を取ったときの仲間ではもっとも優秀といわれましたし、実地も熱心で経験も10年余りになる)それが一昨年あたりから成績が下がり始めて昨年は分娩予定日がきても赤ちゃんがいない、空胎が目立ち始めたのです。ついに例年なら五十数頭生まれる子牛が44頭。
 その話をして、「私も覚えがあるが、指先に神経を集中して微妙な感覚を読み取らないと結果が悪くなる。そのことは体験しないとどうしても自分のものにならない。彼女はそれを体験中。」
 それを聞いた彼、「そうなんだ、私も何度も失敗して初めて身につきました。」
 「貴方は中堅、若い人にはその話をしてあげてください。」とお願いしたのです。
 牛の人工授精の教科書にも、講習会の指導にも、指先の感覚が最後の決め手とは教えていないが、本当の技術は失敗と経験の積み重ねの中でしか育たないものです。

 たくさんの子牛を育てていると、彼らが人間と付き合うにも、相手によって差があることに気づきます。私はそれが人の持つ隠し味のせいだと思っています。

 組織の中に居られた貴方は、選挙民という多種多様の人たちが理解できる隠し味を持つ。それが出来ていなかった。そこが敗因で、決して分裂選挙が決定的な要因だとは思えないのです。

 私が30後半の昔、本省から、山本、川村両課長さんが来場され、意見を聞かれたことがあります。特に川村さんの時は、大勢での来場をお断りをしたら、秘書官と運転手の3人でおいでになりました。
そして作り始めた牧場の丘で、これからの農業について、私の考えを聞いてくださいました。
 私は、そのときの経験から、高級官僚の人たちは、優秀な人間の集まりであると思っているのです。が、何かが物足らない、それが人間としての隠し味だと気づくまで、40年近くかかってしまいました。

 貴方はこれから政治家の道を歩まれるのだろうと思いますが、底辺の庶民は動物と同じように、この人は仲間なのか、敵なのかを本能的に知ろうとします。この能力を侮ってはなりません。そこに訴えるのが人間の隠し味だと思います。政治家や有力者だけでなく、裃を脱いで多くの人に触れ合ってください。その中に貴方の人生の出会いを増やす人がいるはずです。

 長官、先生と呼ばれる方に失礼なことばかり書き記しました。老人の戯言とお忘れください。
 そして、これからも、日本のためにご尽力ください。

2007.2.11 見浦 哲弥

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